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シ​ャ​ー​プ​ペ​ン​シ​ル​の​芯 (Mechanical Pencil Lead)

by Miya Matsuoka

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1.
十二歳 03:02
これから 冬休みの 注意事項を 言います 凍った湖の上を 歩いては いけません 十二歳 星々の歌が聞こえてくる 雑木林の通学路 かわいい子にはこんぺいとう ときどき わたしは それを見にゆくの ヒミツだよ ヒミツだよ ヒミツ 裏山の湧き水に少女が横たわっているの スクール水着を着たままで凍りついているの ときどき わたしは それを見にゆくの 青白い雪のオフェーリアを ヒミツだよ 十二歳 紙石けんのキャミソールを着た 十二歳 じぶんを包むからだを見つける 十二歳 ガラスのギターはでたらめな音で 十二歳 だれかがわたしを呼ぶ声のほうへ 宇宙が歌う舟歌に乗ってどこまでも かけてゆこう 銀河の果てまで続く坂道をどこまでも かけてゆこう オルゴールの織る夢に包まれてどこまでも かけてゆこう 誰かがわたしを呼ぶ声のほうへ どこまでも どこまでも おばあちゃん わたしもう帰らないから おばあちゃん わたしもう帰らないから おばあちゃん なんでこんなにどきどきしてるのかな なんでこんなにどきどきしてるのかな わからないよ 怖いよおばあちゃん 静脈の青に融けてゆきそうだよ わたしもう わたしもう 帰らないから 三学期 山口さんは いなくなった 山口さんは あんなに先生が言っていたのに 凍った湖の上を歩いてしまったのだ クラスでいちばん細くて可愛かった 山口さん こいぬ座みたいに歌が上手だった 山口さん 違うわ 彼女は死んだんじゃないの 彼女はまだいまも裏山で凍ったままなの スクール水着を着たままで凍りついたままなの ときどき わたしは それを見にゆくの そして オレンジジュースを 飲ませて あげるの
2.
ヒースロー、朝10時 第3ターミナル 小さなコイン握り スターバックスでひと休み ポンドに指が慣れた頃 カフェラテが包み込む「悪意」 もしもわたしが外人だったら もしもわたしが外人だったら もしもわたしが珍しかったら もしもわたしが珍しかったら 最初に覚えた言葉は「 Sorry 」 顔って どうしてこんなに むき出しなんだろうって もしもわたしが嫌われていたら もしもわたしが嫌われていたら もしもわたしが邪魔っけだったら もしもわたしが邪魔っけだったら ヒースロー、朝10時 見えないギャップに気をつけて あなたの肌のにおい そこでは誰とも違うから 人々のざわめきが 包み込み隠し込む「悪意」 もしもわたしが標的だったら もしもわたしが標的だったら もしもわたしが目障りだったら もしもわたしが目障りだったら 日本の国民である このパスポートの所持人を 通路故障なく旅行させ 通路故障なく旅行させ かつ同人に必要な 保護扶助を与えられるよう 関係の諸官に要請をする 要請をする 日本の国民である このパスポートの所持人を 通路故障なく旅行させ 通路故障なく旅行させ かつ同人に必要な 保護扶助を与えられるよう 関係の諸官に 要請をする 日本の国民である このパスポートの所持人を 通路故障なく旅行させ 通路故障なく旅行させ かつ同人に必要な 保護扶助を与えられるよう 関係の諸官に 要請をする 日本国 外務大臣 アソーウ タローウ! 日本の国民である このパスポートの所持人を 通路故障なく旅行させ 通路故障なく旅行させ かつ同人に必要な 保護扶助を与えられるよう 関係の諸官に 要請をする
3.
ねえ みせて ねえ みせて もう はえた? ねえ みせて 花瓶の奥の腐った水を みせて みせて みせて みせて 写真もね 撮らせて ねえ みせて ねえ みせて もう はえた? ねえ みせて 廊下の模様は小鹿のしるし みせて みせて みせて みせて 弱い仲間を食べて生き延びるの み せ て よ シャープペンシルの芯をあげるから 許して ガラスの小瓶のコロンあげるから 許して 今日 あれ あれ の日だから 許して だからもう だからもう だからもう 許して シャープペンシルの芯を食べるから しないで ほしいゲームならみんなあげるから しないで 今日 あれ あれ の日だから しないで だからもう だからもう だからもう しないで この上り坂はどこまで続いてゆくんだろう 木枯らしにあおられて枯れ木が踊っている 誰もいないブランコの広場で どうやったら 折れるんだろう 首は どうやったら 折れるんだろう ねえ みせて ねえ みせて もう はえた? ねえ みせて 花瓶の奥の腐った水を みせて みせて みせて みせて 写真もね 撮らせて ねえ みせて ねえ みせて もう はえた? ねえ みせて 廊下の模様は小鹿のしるし みせて みせて みせて みせて 弱い仲間を食べて生き延びるの み せ て よ ねえ みてよ ねえ みてよ もう はえたよ ねえ みてよ 忘れないで 廊下でみんなが やったみたいに ねえ しっかりと みてよ ねえ みてよ ねえ みてよ もう はえたよ ねえ みてよ 忘れないで 廊下でみんなが やったみたいに ねえ 写真もね 撮って ねえ みてよ ねえ みてよ もっと みてよ もっと みてよ 気持ちいいよ 廊下でみんなに されてるみたいだよ なんだかね いいよ ねえ みてよ ねえ みてよ ちゃんと みてよ ひらいて みてよ 奥まで みてよ シャープペンシルの芯が詰まってる シャープペンシルの芯が詰まってる シャープペンシルの芯が詰まってる のを しっかり みてよ
4.
だったんだ だったんだ だったんだ だったんだ 過去形たちが降り積もる ここは兄の森 だったんだ そう だったんだ だったんだ そう だったんだ かすかなにおいが残ってる ここは兄の森 だったんだってばだったんだ だったんだってばだったんだ 新陳代謝をあきらめちゃった ここは兄の森 だったんだ そう だったんだ だったんだ そう だったんだ なぜだかちょっぴり暖かい ここは兄の森 あるじは ここには もういない マスターベーションもう100回 もうもう100回もう100回 県立さくらば幼稚園 マスターベーションもう1000回 もうもう1000回もう1000回 もうもうせんの もうせんの 3年7組さくら子さん 「ここで 突然ですが 通信簿の読みあげを行いたいと思います 純真そのものですが一本気なところがあります クラスメートがどんなに急ごうと超然としています 牛乳が苦手なようでした 休み時間が終わってもほかのお友だちとおしゃべりがとまらないときがありました かけざんの九九をまだ覚えていないようですので ご家庭で指導するようにしてください」 あるじはここにはもういない マスターベーション10000回 もうもうまんかい もうまんかい 街にはさくらがもう満開 風 風 吹くな 風 吹くな 地震も来るな 動かすな だれも兄貴を揺らしちゃだめだよ そしてここにも 春が来た だったんです だったんです だったんです だったんです 過去形たちを踏みしめ歩く ここは兄の森 だったんですよ だったんですって だったんですって だったんですよ 窓を開けてもいいかしら ここは兄の森
5.
雪が谷車庫の片隅に 運転士型ロボットが 転がっている 彼の名前は 嶋村 といった 嶋村の嶋は山に鳥 身長182センチ 体重150キロ ステンレス製のなめらかな肌 だけど 今はもう誰も彼を使わなくなってしまった 金属質の身体がぼろぼろとこぼれている 眠らない昆虫たちが 彼の胸元で戯れている 不器用なゴーシュたちのオーケストラ スズや 鉛や ニッケルたちが奏でるオーケストラ 嶋村の薄い唇がいっしょに歌っている 誰にも聴こえない声でいっしょに歌っている 夢の運転士型ロボットと呼ばれていました 専門家が社運をかけて開発しました 工場では技師さんたちが一台一台手作りしてくれました 時間をかけていろいろな教育を受けさせてもらいました 強風で空き缶が転がる音 それから バケツが転がる音 今夜半から天気は回復する見込みですが 近隣住民の皆さんはどうぞ ご注意下さい マスターマスターコントローラー マスターマスターコントローラー 水銀ヶ原でまた会おう 片手を挙げてるパンタグラフ まっすぐまっすぐワンノッチ まっすぐまっすぐツーノッチ 動輪 ローリン フォーリン ロンリー ドルフィンカットの流れ星 マスターマスターコントローラー マスターマスターコントローラー 宇宙の列車は時速500キロ 反応進行どこまでも まっすぐまっすぐワンノッチ まっすぐまっすぐツーノッチ 動輪 ローリン フォーリン ロンリー ドリームランドのイルミネーションだ 足元には ブリキの少年少女たちが たくさん 転がっていた 保健室の神様と呼ばれたクラスメイトも その中に いた シルバーライナー加速する 人間工場あとにして シルバーライナー加速する 宇宙の夜明けを追い越して 嶋村だったステンレスが 嶋村だったステンレスが まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ 死ねない シルバーライナー加速する 人間工場あとにして シルバーライナー加速する 宇宙の夜明けを追い越して 嶋村だったステンレスが 嶋村だったステンレスが まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ まだ歌っている ぼくを 考えてくださって ありがとうございます ぼくを 設計してくださって ありがとうございます ぼくを 作ってくださって ありがとうございます ぼくに 夢を託して 未来を託して 社運をかけて 時間をかけて くださって どうもありがとうございました ごめんなさい あまり お役に立てなくて ぼくの たくさんのおとうさんたちへ
6.
プールに入るその前に準備体操をしましょう だって プールに入るその前に身体を消毒しましょう だって プールに入るその前に帽子に名前書きましょう だって プールに入るその前にトイレにいっておきましょう だって プールに入るその前に準備体操をしましょう だって プールに入るその前に手首をこりこりしましょう だって プールに入るその前に足首こりこりしましょう だって プールに入るその前は 気をつけて 気をつけて あのこ 先生にかわいがられているから あのこ 男子の前ではぶりっこだから あのこ アメリカ帰りだから あのこ 足の血管が透けて気持ち悪いから あのこ お父さんが象の置物を集めてるんだって へんだから あのこ 成績も良くて こまるから あのこ 泳ぎだけは苦手だって泣いていたから ねえ みんなで 落としちゃおうよ あの子の身体を持ち上げて プールの中に Swim Swim Swam Swam Phoo Phaa Swim Swim Swam Swam Phoo Phaa 海の底 泳いでる 白銀の少女たち プリズムの 光線を 身体に刺して Swim Swim Swam Swam Phoo Phaa Swim Swim Swam Swam Phoo Phaa 三人称単数のSたちが指さすよ 丸見えだぜ 内臓が ああ Swim Swim Swam Swam Phoo Phaa Swim Swim Swam Swam Phoo Phaa ごめんねの つぶつぶを つめこんで 苦しいよ 落ちてゆく 沈んでく 積もってゆく少女たち Swim Swim Swam Swam Shuuu Shuuu Swim Swim Swam Swam Shuuu Shuuu あの子とね わたしのね 身体がね 重なって 落ちてゆく 沈んでく 積もってゆく 少女たち プールに入るその前に準備体操をしましょう だって プールに入るその前に手首をこりこりしましょう だって プールに入るその前に足首こりこりしましょう だって プールに入るその前は 気をつけて 気をつけて 起立 気をつけ 礼 プールサイドは 走っちゃ だめ
7.
窓の向こう 夜のいちばん遠く 葡萄畑のある 小さな星が 爆発する 音が しました ふと 見上げると 天窓には いくつもの流れ星が 輝いていました 「だって・だって」も もう言えない くす・くす・ぐったい・キスをして あなたはわたしを可愛がる 永久機関のできあがり 朝焼け ドーター ポーラスター 出口の見えない娘たち 自分のからだの境目が だんだんだんだん薄くなる だんだんだんだん薄くなる この 皮膚の一枚下のあたりで 何かが 生まれている 何かが・・・何かが・・・何か・・・何かが・・・ おかあさん かあさん もっともっと 金魚みたいな忍苦連鎖(ニンクリング)して おかあさん かあさん もっともっと 青い宇宙が失禁するまで もっともっと もっともっと もっとマザリング・エクスプロージョン 自爆しませんか 「二度とは逃がしはしないから」 「二度とは逃がしはしないから」 金属質のへその緒を クルクルクルクル巻き付けて それからあなたはほほえんで 娘のすべてを食べ尽くす それが「愛」だとつぶやいて やりたい放題食べ尽くす 夕焼けお空に星ひとつ 明日も知らない娘たち ことばの種も溶けてゆく だんだんだんだん溶けてゆく だんだんだんだん溶けてゆく もうひとりの わたしが もうふたりめの わたしが 脱出する どこかへ どこかへ どこか どこかへ おかあさん かあさん もっともっと 電気みたいな忍苦連鎖(ニンクリング)して おかあさん かあさん もっともっと 強いあなたが欲しいぶんだけ もっともっと もっともっと もっとマザリング・エクスプロージョン 自爆しませんか おかあさん かあさん もっともっと 金魚みたいな忍苦連鎖(ニンクリング)して おかあさん かあさん もっともっと 青い宇宙が失禁するまで もっともっと もっともっと もっとマザリング・エクスプロージョン もっともっと もっともっと もっともっと忍苦連鎖(ニンクリング)して おかあさん かあさん もっともっと もっともっと忍苦連鎖(ニンクリング)して おかあさん かあさん もっともっと もっとマザリング・エクスプロージョン 自爆しませんか ふと 見上げると 天窓には いくつもの流れ星が 輝いています それは わたしの あかちゃんの星 泣いています 泣いています みんな 泣いています お誕生日おめでとう
8.
JFK 04:22
ジョン・ F ・ケネディ・エアポートから 鉄橋を超えてマンハッタン島へ 入国審査で取られた指紋が 夜空に光っているよ ようこそ アメリカへ ペンシルヴェニアステーションのカフェテラス ヘーゼルナッツのコーヒーフレーバー わかる?わからない!わからない?わかる! 見えないガラスを壊さないように ベーグルはトーストしますか? 中にチーズは入れますか? 中にハムは入れますか? スクランブルドエッグもいかが? ふらーや ふらーや ふらーーーーーーーアメリカ! 遠く 遠く 旅して ふらいあ ふらいあ ふらーーーーーーーアメリカ! モンドリアンの地図に迷って 交差点の真ん中で叫ぶ叫ぶ ボアリン・ボーイン・ボーディン・パス ボアリン・ボーイン・ボーディン・パス ボアリン・ボーイン・ボーディン・パス トイレはどこですか? ジョン・レノンたちが歩いたという公園は 無口な枯れ木の森でした デリカテッセンの6ドルのサラダバー マンホールからはおしゃべりな白い湯気たち ステーキハウスの机はがたがた 巨大な瓶詰めのレモネードとスペアリブをひとつ 「 Watch the gap! 」見えないギャップも見つめなさいと 地下鉄の自動放送にまで 叱られちゃった 何か 何か お困りですかい? もよりの地下鉄駅ですかい? それなら4ブロック先だぜ あんたの幸運 祈ります ! ふらーや ふらーや ふらーーーーーーーアメリカ! 遠く 遠く 旅して ふらいあ ふらいあ ふらーーーーーーーアメリカ! 人種のるつぼと言うけど るつぼの るの字の まるに 隠れて メトロポリタン幕の内 メトロポリタン幕の内 メトロポリタン幕の内 トイレはそこですか? ふらーや ふらーや ふらーーーーーーー ふらーや ふらーや ふらーーーーーーー ふらーや ふらーや ふらーーーーーーーーアメリカ! 遠く 遠く 旅して ふらーや ふらーや ふらーーーーーーーーアメリカ! それでは また 逢いましょう それでは また いつか どこかで メトロポリタン幕の内 メトロポリタン幕の内 メトロポリタン幕の内 トイレはここですか?
9.
19時3分に上野駅を出た北斗星号が ゆっくりと ゆっくりと 北に向かって走ってゆく 細い扉をノックするのは 青森車掌区 十和田湖車掌 アシナガバチのお部屋にようこそ ここは B 寝台ソロです むかしむかし 通学路で転んだ傷跡 むかしむかし 河川敷につけた足跡 わずかな記憶の小石たちが でんしゃごっこのあみのなかに 楽しく 集まってくる アシナガバチのお部屋にようこそ ここは B 寝台ソロです ロビーカーは夢のちょうちょの交差点 ゆっくりと往復する十和田湖車掌の 弱々しい 羽音 がたがったん がたがったん がったん がったん たたたん がたがったん がたがったん がったん がったん たたたん がたがったん がたがったん がたがったん がったん がったんたん ぐんない(Good night) それでは ここで 到着時刻のご案内をいたします 札幌到着は11時15分です 苫小牧着は10時19分です 東室蘭着は9時32分です 長万部着は8時29分です 函館着は 6時35分です ふと窓の外を見ると 朝の階段を一段一段駆け上がってゆく北斗の星 もう いくつの枕木を過ぎたことでしょう アシナガバチのお部屋にようこそ ここは B 寝台ソロです 小さな小瓶の奥に詰まった星の砂がちくちくとする それは いつでも私をかばって叱られていた 姉の涙だ どこいったん どこいったん いったん いったん たたたん どこやったん どこやったん やったん やったん たたたん どこいったん どこいったん どこいったん いったん いったんたん バイバイ(Bye-bye) がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がたがったん がったん がったんたん バイバイ(Bye-bye)

credits

released May 25, 2011

Photography: Kyo, Hiraku Kashiwaba
Mix: lender

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