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点​滴​夜​行​(​Minus 2)

by Miya Matsuoka

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1.
弱者絨毯新宿駅 壊れた傘が到着する ぐるぐるぐるぐるまわりながら 壊れた傘が増えてゆく 駅員がひとり立っている 金色の蛇を首に巻き おんなじ言葉を繰り返す 『思いやり ありがとう』 つぎの電車は 2 番線に参ります つぎの電車は 4 番線に参ります つぎの電車は 8 番線に参ります つぎの電車は さあさあ何番でしょか? ゲリラ豪雨に曝されて 隠されたものたちが叫ぶ ホームの下の空洞に 甘い紅茶が残ってる 行方不明のあのひとの 右半身が歩いてる 骨が折れてるあのじいさんは 指名手配の桐島かも 自乗環状新宿駅 壊れた傘が到着する ぐるぐるぐるぐるまわりながら 壊れた傘がまた増えた こんなに優しい駅はない 人のことなど見ちゃいない こんなに優しい駅はない 『思いやり ありがとう』 駅員がひとり立っている よく見たら彼は半分だ 左半分の駅員が 到着列車を案内する あんまり電車が多いので 右半身がなくなりました 僕も半分どこかに行きました 僕も半分どこかに行きました 駅も半分どこかに行きました つぎの電車は 2 番線に参ります つぎの電車は 4 番線に参ります つぎの電車は 8 番線に参ります つぎの電車は さあさあ何番でしょか? 『毎度 新宿駅をご利用いただき ありがとうございます 電車 到着しております 黄色い線の外側にお下がりください 皆様の暖かい思いやりを ありがとうございます』 『毎度 新宿駅をご利用いただき ありがとうございます 電車 到着しております 黄色い線の外側にお下がりください 皆様の暖かい思いやりを ありがとうございます』
2.
母は愛しているのです 我が子を愛しているのです 寒いアシナガバチが つつじの葉っぱの裏で 長い脚も翼も 蜘蛛の糸に捕らえられ やられた だめだ 動けない そんな いまわの際で 母は あ 母は愛しているのです 我が子を を 我が子を愛しているのです 母が戻って来ない 小さな巣穴で幼虫は 雨の音よりかすかに ひゃうひゃうひゃうと啼くのです 母はそれを聴くのです 寒さで関節がきしみ 次第に遠のく意識で ひゃうひゃうひゃうを聴くのです あの子に い あの子にご飯をあげなくちゃ あの子を を あの子をちゃんと育てなきゃ ぽんぽん 春は本当に簡単にたくさんのものを 生み出してゆく そして春は本当に簡単に たくさんのものたちを 消滅させてゆく ぽんぽん 母に嘘ばかりついて 母の財布をくすねて 母の頬を殴り 家にちっとも帰っ てこない 子供であったとしても 数百万の借金を 何回も母に肩代わりさせる 子供であったとしても 前科を何犯もこさえて 警察に何回も呼ばれる 子供であったとしても 母が憎いと家を出た 見た目だけは美しい 娘であったとしても 母の知らない語彙で反論する 優秀すぎる子供であったとしても いまわの際の水のふちでは 母はやっと愛せるのです 蜘蛛の牙に捕らえられ 母の翼がもげる くるり 身体が廻る つつじの葉っぱの裏で 空に見えた三日月 それは母に似ています 翼も足も外された 哀れな母に似ています 母は愛していたのです 本当は愛していたのです 病院のベッドの上で 点滴チューブに囲まれ 母は逢いたかったよ もう一度逢いたかったよ 小さな可愛いあなたに もう一度逢いたかったよ 明日は天気も戻って 青空広がるそうです それはほんの少しだけ それはそれは遅かった ぽんぽん 幼虫たちが ぽんぽん 地面に落ちて 夜空見上げた時に 見えたものは三日月 待ってて 母さん いまそこに行くから 待ってて 母さん いまそこに行くから
3.
シューシュータンタン シューシュータンタン 獣を乗せて 寝台特急サンライズ号が 西に向かってゆく シューシュータンタン シューシュータンタン B寝台の 天窓にオリオンが追いかけてくる この列車には売店も 食堂もありません 岡山駅に到着するまで 食糧はありません お腹がすいた お腹がすいた 獣たち 目を覚ます ボーンボーン 夜の零時を ボーンボーン お知らせします シューシュータンタン シューシュータンタン クリーム色の 寝台特急サンライズ号が 夜に向かってゆく シューシュータンタン シューシュータンタン 砂時計の 時間の砂を 宇宙のシーツに まき散らしながら 野生の熊は人間の味が 忘れられなくて 寝台列車の通路であっても 待ち伏せするという お腹がすいた お腹がすいた 獣たち 牙をむく ボーンボーン 車掌さんを ボーンボーン 食べてはいけません シューシュータンタン シューシュータンタン 夜の黒板に 文字を知らない頃の文字が 書き綴られている シューシュータンタン シューシュータンタン ここは県境 一級河川の魚のしっぽが きらり翻る どこかの家で赤ちゃんがひとり 泣いている声 どこかの家で父と母が黙りあう声 何事もないようなすました顔をして シューシュータンタン シューシュータンタン 踏切 通過します シューシュータンタン シューシュータンタン クリーム色の 寝台特急サンライズ号が 朝に向かってゆく シューシュータンタン シューシュータンタン B寝台に 食べつくされた骨たちが 散らばっている この列車には売店も 食堂もありません 岡山駅に到着するまで 食糧はありません お腹がすいた お腹がすいた 獣たち 朝ですよ ボーンボーン 車掌さんは ボーンボーン どっかに行っちゃった ボーンボーン 車掌さんは ボーンボーン どっかに行っちゃった
4.
立体 04:55
空から指が 降りてくる 溶岩台地のベッドに寝そべって 夢むわたしに 空から大きな指が 降りてくる シュークリームの 中味だけだったわたしに 綺麗な外見を あげましょうと 言った 森には 秘密が たくさん隠れている 何万年もの秘密が 落ち葉になって 堆積している 立体になる ふくらみかけた 立体になる ふたつの丘に 立体になる 針金入れて 立体になる 綺麗に見せて 立体になる レースのポプリ 立体になる いちごを詰めて 立体になる きゅっと絞って 立体になる 違う生き物が わたし食べにくる いつからだろう さみしい丘の道を選んで 学校から帰るようになったのは いつからだろう 優しかった美術の先生が いなくなってしまったのは いつからだろう 街のあちこちに鏡があることに 気付いたのは わたしね 今日から パンもご飯も食べないことにする それ すっごくいい考えね ねえ みんなでまねしちゃおう 立体になる パンのかけらを 立体になる 置いた道に 立体になる 雪が降ったら 立体になる もう戻れない 立体になる ふくらみかけた 立体になる ふたつの丘に 立体になる 谷間が出来て 立体になる 違う生き物が わたし食べにくる 立体になる 大きな指が 立体になる おそいかかる 立体になる 切り裂かれて 立体になる 切り裂かれて 立体になる 割れ目からは 立体になる あふれるマグマ 立体になる あふれるマグマ 立体になる 赤い涙 立体になる 大きな指が 立体になる おそいかかる 立体になる 育て育てと 立体になる おそいかかる 立体になる それはわたし 立体になる それもわたし 立体になる 止めなくっちゃ 立体になる はやく止めなくちゃ 森には 秘密が たくさん隠れている 何万年もの秘密が 落ち葉になって 堆積している 土砂崩れのあと 小さな女の子たちが 何人も 何人も 折り重なって 地層になっているのを 見た
5.
もれる 04:35
『まいど 地下鉄ひび割れ線に ご乗車ありがとうございます』 車掌の声はひび割れていた 最後尾の車両には 噴火しそうな サラリーマン 音の出ていないイヤホン耳から もれる もれる 月夜の海辺で夜光虫たちが 粘液を交換しあっている音がする わたしは車掌室の ガラスにもたれて 津波の予感を聴いている もれる もれる もれる もれる 差し込む差し込む差し込む痛みに 差し込むこらえる運転士 コルクの栓をくださいひとつ 腹部をおさえる運転士 懐中電気の電池の液漏れ 万年筆から涙のひとつぶ それでも指差す指差す前へ シュー 飲み込む飲み込む飲み込む空気の 飲み込むこらえるサラリーマン 守ってあげたい内肺葉が 裏を表にエマージェンシー 自動嘔吐のプログラミング 空気を切り裂く日本刀 臨時ニュースをお知らせします もれる もれる トンネルトンネルトンネルの中を トンネルねずみが駆けてゆく 暴露ウィルスにやられちゃったね 空気を読めないおしゃべり次郎 電子カルテの経路に立てば 患者の情報 雨あらし それでもメトロはメトロは前に シュー 苦しい苦しい苦しいわたしが 苦しいこぶしをいま開く 何にも何にも何にもいらない 失禁まぎわの波打ち際で 言ってはならない言葉が踊る 言ってはならない言葉と踊る 臨時ニュースをお知らせします もれる もれる もれる もれる もれるって素敵 わたしどうなったの なんでケガしてるの なんで血が出てるの なんで濡れているの 覚えてないの?って 覚えてないです なんで真っ暗なの なんでここはほこりっぽいの? 大丈夫です ひとりで 歩けます 大丈夫です ひび割れから光が差し込んできた あなから光がもれている あな あな あな もれるって素敵 傾いた狭い空間から がれきの山を踏み越えて もうすぐ地上だ がんばれ 地上に出たら きっと たんぽぽが一面に 咲き乱れているんだろうな ひつじ雲が地平の果てまで 広がっているんだろうな
6.
水は優しき大田区 空の広き大田区 母なる大田区と ひとがいう 足元に絡みあう夏草の思惑 大田区に住んで しばらくして気づい たこと 絡み合っている糸がある・・・ 見られている視線がある・・・ ・・・あなた 誰? どこから来たの? 誰の紹介で なぜ そこにいるの? 風船の糸を握る めざとくて優しい手のこと 一匹狼はすぐにご飯を与えられ どこかに所属せざるをえない 大田区よ 落下傘は暖かく出迎えられて すばやく誰かの陣営に入らされる 大田区よ 長生きのかあさんが 今日は駅前で見知らぬ人を見たと 夕食時に報告をする 大田区よ 大田区というひとつの 完結した世界があり 水は優しき 空の広き 美味しい空気が味わえて 伸びたい草は夏ざかり 世田谷を見るな 品川を見るな 川崎を見るな 太平洋を見るな ただ 大田区内だけを見ていなさい 夏草は足首に絡まり 風は頬に忠告をする たいくつの暇がないほど 会合好きな同業者たち 友達の友達はもう友達な大田区 思惑の風船は ぶつかりあって 仲よくなって 握手して ・・・どうして 仲よくなろうとするの? 自由な風船はもう ひとりぼっちではいられない 『あなたはここで生き  ここで認められ ここで幸せな一生を終えるのだ』 『違法駐輪を許さぬ目 みんなの目』 もう大田区を出られない 出るときは全てを棄てるとき もう大田区を出られない みんな かぞく みんな きょうだい みんな ともだち みんな なかよし 優しい仲間に囲まれて ときどき 自由な空を 恋しがる
7.
雪が谷車庫の片隅に 運転士型ロボットが 転がっている 彼の名前は嶋村といった 嶋村の嶋は山に鳥 身長 182 センチ 体重 150 キロ ステンレス製のなめらかな肌 だけど 今はもう 誰も彼を使わなくなってしまった 金属質の身体が ぼろぼろとこぼれている 眠らない昆虫たちが 彼の胸元で戯れている 不器用なゴーシュたちの オーケストラ スズや鉛やニッケルたちが 奏でる音楽 嶋村の薄い唇が いっしょに歌っている 誰にも聴こえない声で いっしょに歌っている 『夢の運転士型ロボットと 呼ばれていました 専門家が社運をかけて開発しました 工場では技師さんたちが一台一台 手作りしてくれました 時間をかけていろいろな教育を 受けさせてもらいました』 強風で空き缶が転がる音 それから バケツが転がる音 今夜半から天気は 回復する見込みですが 近隣住民の皆さんは どうぞ ご注意下さい マスターマスターコントローラー マスターマスターコントローラー 水銀ヶ原でまた会おう 片手を挙げてるパンタグラフ まっすぐまっすぐワンノッチ まっすぐまっすぐツーノッチ 動輪 ローリン フォーリン ロンリー ドルフィンカットの流れ星 マスターマスターコントローラー マスターマスターコントローラー 宇宙の列車は時速 500 キロ 反応進行どこまでも まっすぐまっすぐワンノッチ まっすぐまっすぐツーノッチ 動輪 ローリン フォーリン ロンリー ドリームランドの イルミネーションだ 足元には ブリキの少年少女たちが たくさん転がっていた 保健室の神様と呼ばれた クラスメイトも その中にいた シルバーライナー加速する 人間工場あとにして シルバーライナー加速する 宇宙の夜明けを追い越して 嶋村だったステンレスが 嶋村だったステンレスが まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ 死ねない シルバーライナー加速する 人間工場あとにして シルバーライナー加速する 宇宙の夜明けを追い越して 嶋村だったステンレスが 嶋村だったステンレスが まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ まだまだ まだ歌っている ぼくを 考えてくださって ありがとうございます ぼくを 設計してくださって ありがとうございます ぼくを 作ってくださって ありがとうございます ぼくに 夢を託して 未来を託して 社運をかけて 時間をかけて くださって どうもありがとうございました ごめんなさい あまり お役に立てなくて ぼくの たくさんのおとうさんたちへ
8.
すべてをバラしてしまいたい 国道走るサイクリスト しっぽにナイフを2本か3本 隠したままのサイクリスト ほっぺにコップに涙をいっぱい 隠したままのサイクリスト 見た目と違って弱くて弱くて 弱くてごめんなさい ダウンストローク ダウンストローク ダウン ダウン ダウン 白いボトムの奥のふともも 筋肉質のサイクリスト 小学生をこの胸に 監禁しているサイクリスト 那由多・不可思議・無量大数・ GIANT・Bianchi・サイクリスト パンクする パンクする 膨らみすぎてパンクする ダウンストローク ダウンストローク ダウン ダウン ダウン 3丁目には kindergarten 4丁目にはかぐわしいお花畑 突然出会う綺麗な女の子たちは 刃物  は は は は 風に乗って 風に乗って 僕は今日 衝突します 赤いバラも 青いバラも バラバラにバラバラにして 咲かせます Hey Yo サイクリストグルグルめぐる時代 感情は誰でも怒り狂う 今はネットに燃焼クソガキ 妖怪だらけの心理The Game Mother Fucker  頭抱えテレビに世論 ロクデナシの奴ほど人恋しい 信じて動けよ手足と頭 チャリ漕いで進めよ刻一刻と 葛藤の日々なんてビビんなみんな 世の中クソったれChange the world 世界はみんなテロリスト 手に取り闘うコザイクリスト 一輪のバラ差せこの胸突き刺せ 君らベルサイユ・宮・デンカの宝刀 Yeah すべてをバラしてしまいたい 国道走るサイクリスト 並木のかげに警察官 しっぽを隠すサイクリスト きっとチューブのどこかに 穴があいてしまったサイクリスト 見た目と違って弱くて弱くて 弱くてごめんなさい ダウンストローク ダウンストローク ダウン ダウン ダウン 白いボトムの奥で何かが 警告してるサイクリスト レイプという字が頭から 離れないんだサイクリスト 那由多・不可思議・無量大数・ GIANT・Bianchi・サイクリスト パンクする パンクする もうすぐ僕はパンクする ダウンストローク ダウンストローク ダウン ダウン ダウン 1丁目には 広い森のあるお屋敷があったけれど さっき見たら 更地になっていた 突然出会うアゲハチョウの群れは 刃物 は は は は 風に乗って 風に乗って 僕は今日 衝突します 赤いバラも 青いバラも バラバラにバラバラにして 咲かせます 咲かせます

about

Intravenous Night Train:Minus 2

credits

released November 26, 2021

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